トランプ大統領が慣例に従い2018年1月12日、軍医による健康診断を受けその結果が公表されました。ところがプロペシアの使用がバレてしまう、という痛恨の事態に。

大統領選中に候補者が納税証明書を公表することが通例となっているのに、当時のトランプ候補は監査が入っていることを理由に拒否。専門家は「監査が入っていても公表することに問題はない」という見解を出したところ、「もし大統領に当選したら納税証明書を公表する」ということで落ち着きました。

結局は当選後も納税証明書を提出していないトランプ大統領。今回の健康診断も”慣例に従い”公表するかどうかが注目されていました。

公表が注目されていた理由の一つは、昨年2月元主治医が、トランプ大統領の増毛目的でのプロペシア服用をNYタイムズ紙に暴露したことです。この件に関しホワイトハウスは回答を拒否し、真偽が分からずにいたところ、今回軍医によりプロペシアの使用が確認されてしまいました。

トランプ軍医の検診
Source:https://www.nytimes.com

アメリカの大統領は健康診断を受けなければならない?

まず疑問に思うのはアメリカの大統領はそもそも健康診断を受けなければならないのか?ということです。日本の首相で健康状態を詳しく定期的に公表した人がいた記憶はありません。

これに対する答えを調べたところ、アメリカの大統領は健康診断をしなければいけない義務も、また健康診断をするにしてもどんな検査をするのかの基準もなく、その結果を公表することさえ法律で定められてはいません。もし健康診断をしたとしても、どんな医者に任せるかも大統領の自由で、好きな医者を選べます。

近年の歴代大統領が毎年健康診断の結果を公表していたので、アメリカ国民はてっきりこれが義務なのかと思い込んでいたようです。ただしやはり高齢で、ハンバーガー(特にマクドナルドのダブルマック)とステーキそしてフライドポテトが好きで、野菜嫌いで知られているトランプ大統領の健康状態に疑問を持つ人も多くいたので、検査結果が待たれていました。

ところでアメリカ人はポテトは炭水化物ではなくて、野菜という意識が強いので、トランプ大統領も「自分は野菜を毎日とっている」と思っているかもしれません。

トランプ大統領は選挙中にヒラリー・クリントン候補を「大統領になるにはスタミナが足りない」と何度も攻撃していたので、ではいったいトランプ氏自身の健康状態はどうなのだろう、と興味のある人がいても仕方がありません。

ただ納税申告書を公表しなかったので、健康診断書も公表しない可能性もささやかれていました。

トランプ大統領の健康状態

秘密裏に健康診断を受けて結果が思わしくなければ、受けたことさえ公表しない選択もできたのに、トランプ大統領はよほど自分の健康状態に自信があったようです。ホワイトハウスは、事前に健康診断の日程まで発表しました。

主治医は海軍少将

大統領になると、ホワイトハウス付きの医者でも自分の懇意にしている医者でも自身の専属医にできますが、トランプ大統領は自身の元主治医は選ばす、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の時代からホワイトハウスで働いていたロニー・ジャクソン氏(2006年からホワイトハウス付きの医者として働いたあと、2013年にオバマ元大統領の専属医に)を選びました。

ジャクソン氏は、海軍のRear Admiralという上級少将にあたる地位を持った軍人でもあり(元帥-大将-中将-少将-大佐-中佐-少佐-大尉-中尉-少尉の順)、ホワイトハウスに入る前は国内の海軍病院で経験を積んだあと、イラクで従軍していました。

トランプ大統領が認知症検査!?

トランプ大統領に関する噂は数々あり、もちろんその中には正しくない報道も含まれていると思いますが、短気でところ構わず誰でも怒鳴りつけたり、側近のアドバイスを全く聞かなかったりという性格は誰もが否定せず、周知の事実に。

さらに健康診断の直前、1月5日に『炎と怒り-トランプ政権の内幕』(マイケル・ウォルフ著)という暴露本が出版され、性格的な問題にとどまらず、トランプ大統領の精神状態、認知状態が国民の関心事にまでなっていきました。このことから「健康診断に精神科の診断は含まれるのか?」と報道関係機関が質問したところ、ホワイトハウスは「含まれません」、と回答。

どうして精神科の診断が話題になったかというと、アメリカ合衆国憲法修正第25条という法律がその背景にあります。修正第25条はアメリカ大統領の承継を取扱い、副大統領が欠員の場合それを埋める方法と、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができない場合の対処法を規定。

この憲法の第3節と4節は大統領の職務不能に関して書かれてあり、特に第4節は、大統領が「自発的ではない引退」に追い込まれる場合についての記述が。第4節はこれまで一度も発動されたことのない唯一の規定で、ここでは副大統領が「行政各部の長官ないし他の連邦議会が法律で定める機関の長の過半数」(すなわち閣僚の過半数)と共に、大統領の執行不能を宣言できる、とあります。

そして閣僚の過半数が、大統領が国の安全を脅かす狂気であるとか感情的不安定というような状態である、と同意したならそのような宣言を作成することが可能と規定。議会が大統領が職務に留まることの無能性を支持するなら、大統領のあらゆる権限と義務を剥奪し、副大統領は大統領代理におさまることになります。

もともと自身のビジネスと大統領という立場は利益相反になると主張する人が多く、トランプ大統領の弾劾の可能性は最初から言われていましたが、ここに来て精神状態や認知状態を理由に、議会が大統領を強制的に引退させることができるという法律が注目を浴び始めました。

健康診断結果

国民が注視する中、トランプ大統領は予定通り1月12日に首都ワシントン郊外メリーランド州のウォルター・リード米軍医療センターで、前述のローニー・ジャクソン医師による健康診断を受け、その結果が1月16日に公表されました。

・年齢: 71歳7ヵ月
・身長: 190.7㎝
・体重: 108.3㎏
・心拍数: 68
・血圧: 122/74
・動脈血酸素飽和度: 99%
・体温: 36.9℃

その他にも全身の各器官の検査結果が出ており、担当医は「素晴らしい(excellent)な健康状態」だと太鼓判を押しています。これは大統領就任前に当時の主治医が公表した診断書とまったく同じ内容です。

血液検査の結果も細かい数値を含め公表されており、唯一の懸念が悪玉コレステロールが高いということでした。しかしこれは、トランプ大統領のハンバーガー好きが数値に表れたにすぎず、減量とともにすでに飲んでいる高コレステロール血症の薬を調整することで、コントロールできるようです。

http://www.businessinsider.com/trumps-health-report-physical-exam-2018-1

さらにホワイトハウスから正式に報道機関にリリースされた文書を読み進めていくと、驚くことに認知症検査に関して書かれてあるのが見つかりました。当初は精神科に関する診断を受けることを完全に否定していたのに、結果的には認知症検査を受け「30点中30点で問題はない」という記述があります。

ジャクソン医師は「認知症状や問題のある精神症状は全くない」というコメントまで出しました。アンチトランプ派にとってはガッカリする、トランプ派にとってはホッとする結果でした。

トランプ大統領が受けた認知症検査とは?

トランプ大統領の周りは認知症検査の結果を公表するだけでは気が済まず、息子のドナルド・トランプ・ジュニアーがツイッターで、この結果を持ってアンチトランプ派を攻撃するまでに至り、大統領の精神状態が政治的に利用されるという異例の事態にまでなりました。

ところで、トランプ大統領が受けた認知症検査は信頼がおけるものなのでしょうか?今回軍医が選んで行った検査は『モントリオール認知アセスメント』(略してMoCA)と呼ばれるもので、軍医いわく「トランプ大統領が健康診断中に自らリクエストした」そうです。

この報道が出た後、アルツハイマー協会はトランプ大統領に行われたMoCAは「認知症を判断するのには最適なアセスメントテストではない」、という見解を出しました。MoCAはパーキンソン病などの神経変性疾患に伴い現れる認知症の症状を発見するのに使われますが、アルツハイマー協会によると、一つのテストだけで認知症状がないとは言い切れないそうです。

しかもアルツハイマー協会が推奨している3つのテストの中にトランプ大統領が受けたMoCAは含まれていません。MoCAは脳卒中を起こした患者の認知症状を診断するのに最適なテストではあるけれど(94%の高確率で脳卒中後の認知症状を見付けることが可能)、このテストで「誰かが満点を取ったからといって認知症状がない、ましてや精神的に大統領になるのに問題はないなどと判断する事はできない」としています。

それはMoCAのテスト内容を見てみると明らかです。テストは例えば動物の名前を答えたり、今日の日付や場所を書いたり、7を後ろから数えたり(7,6,5,,,)、10時を11分を過ぎた状態の時計の針を書く、などのかなり簡単な、でも認知症状があれば回答するのに困難な問題で構成されています。

実際のテストを見てみたところ、たった1ページのシンプルなテストで、確かにこの一つのテストだけをもって認知症状がないと言い切れないのは納得がいきました。参考までにリンクを貼っておきます。

https://www.parkinsons.va.gov/resources/MOCA-Test-English.pdf

トランプ大統領が使用している薬・サプリメント

診断書はこれで終わらず、さらにトランプ大統領が使用している薬・サプリメントにまで言及しています。これが以前からの「トランプ大統領が増毛剤を服用している」、という噂の真偽を知るカギになるのです。どういう健康診断を受けるかは大統領の自由で、その内容をどこまで公表するのかも自由ですが、ホワイトハウスは薬・サプリメントまで診断結果に含めていました。

その薬とサプリメントの一覧が以下の通りです。

・クレストール(Crestor:高コレステロール血症治療薬)10㎎
・アスピリン(Aspirin:心筋梗塞予防)81㎎
・プロペシア(Propecia:男性型脱毛症治療薬)1㎎
・スーラントラ(Soolantra:皮膚症状酒さ改善薬)クリーム
・セントラム シルバー(Centrum Silver: 総合ビタミン剤)

プロペシアの目的

健康診断の結果だけでなく、ここまで詳しい問診の結果を公表する目的はなんでしょうか?プロペシアを特に薄毛予防のために飲んでいるというのは隠したい事実というのが一般的な見方。ところがトランプ大統領はプロペシアを飲んでいることだけでなく、それが薄毛予防のためだと医師に申告しているのです。

トランプ大統領が服用しているプロペシアは何も書いていなければ、前立腺肥大や前立腺がんの抑制作用があり、そのための服用の可能性もあります。ところが診断書には、「男性型脱毛症の予防のため」とはっきり書かれているのです。これで以前から噂になっていた「トランプ大統領の増毛剤の服用」が本当である、と証明されてしまいました。

トランプ大統領は保守系のメディア以外に非常に攻撃的で、常に彼らのことを「フェイクニュース」と呼び、事実が書かれていたとしても自分に不都合なことはすべてこの一言で片づけてきました(もちろん本当にフェイクなニュースもあるのは事実ですが)。

就任直後にリベラル寄りのニューヨークタイムズ紙が、元主治医とのインタビューでトランプ大統領のプロペシア使用を暴露。ただこれはタイミングの関係で、ホワイトハウス付きの医者として選ばれなかった元主治医の虚言とも疑われていました。

のちに元主治医の暴露話の真偽を確かめるために、同紙はホワイトハウスに質問をしたところ無回答。このことから使用が濃厚、ともっぱらの噂になっていました。

それを今回堂々と認めてしまったのです。なぜなのでしょうか?勝手な推測ですが、トランプ大統領は自分の髪の毛が大統領に立候補するずいぶん前から、ウィッグだと言われているのを知っていました。それに憤慨していたのではないでしょうか?

機嫌のいい時には自分の髪の毛を触らせ「ウィッグじゃないだろう?地毛だって分かるだろう?」と言っている姿が映像に何度か残っています。あの奇妙ともいえる髪形に関してはウィッグだ、いや地毛だ、と本人が(地毛だと)断言しても議論が続く、国民的注目度の高い話題です。

それを今回の健康診断で、「地毛だ」と再び宣言したことになります。プロペシア使用の恥ずかしさよりも自分の髪が地毛である、ということを優先させたかった、そういうことなのでしょうか?

トランプ大統領の髪の毛

たった一つの薬の使用がこれだけ話題になるのも、トランプ大統領のあの不思議な髪形に原因があるのはいうまでもありません。風に吹かれてもほとんどビクともしない髪に、「本物に見えるけど、やっぱりウィッグ?」、「でもウイッグならもっとカッコいい髪形にするのでは?」など意見はさまざま。果てはトランプ大統領の髪形の解説なるものまで登場しています。


Source:https://pbs.twimg.com

ウィッグか地毛かという疑問にはトランプ大統領本人だけでなく、元執事が「トランプ氏は毎日ご自分で髪の毛を整えていました」と証言しています。さらには演説会で「どうだ?今日の髪形決まってるだろう。完璧。」と場を盛り上げたり、メラニア夫人を伴った遊説先で突然雨が降ってきた時に、一つしかない傘に自分が優先的に入り夫人は濡れている、というシーンも。

これらのさまざまなことを重ね合わせると、地毛であることはほぼ間違いないとされていました。そして今回の健康診断結果の公表により、薄毛予防のためにプロペシアを使用していることが確認される形となったのです。

まとめ

髪の毛を公の場で人に触らせるトランプ大統領も、ニューヨークタイムズ紙の「プロペシアを薄毛対策で服用しているのか?」(個人的には結構失礼な質問だと思います)、にはダンマリを決め込んでいました。

ところが図らずも、恒例の大統領の健康診断で真実を語ることになってしまったのです。

さすがに医者の診断書を「フェイクニュースだ!」とは言えず、隠したいであろう事実を公の場に晒してしまったトランプ大統領でした。

ただし結果としては、あらためて71歳にしては驚異のスタミナの持ち主(軍医によると毎日の睡眠時間は4,5時間)で、健康状態も良好というのが診断結果で証明され、さらには髪の毛が地毛であるということが確認され、大統領自身は満足なのではないでしょうか?