コロンビア大学のJAK阻害剤(ルキソリチニブ)の脱毛症に対する臨床試験の結果は大変話題を呼びましたが、今度はエール大学が同じくJAK阻害剤のトファシチニブがアトピー性皮膚炎と尋常性白斑にも効果があることを突き止めました。
アトピー性皮膚炎と尋常性白斑は皮膚の症状だけでなく、薄毛を引き起こす原因の一つです。トファシチニブは既に関節リュウマチのFDA承認薬であることから、数年後にも市場に出てくる可能性があり、期待が寄せられています。
現在、日本国内で円形脱毛症で悩む患者の数は100万人以上。根治が難しい「現代病の一つ」と言われています。ところがアメリカのコロンビア大学が、ルキソリチニブ(商品名:ジャカビ)という骨髄線維症(血液がんの一種)の処方箋薬が …
エール大学の医師夫婦が共同で臨床試験
コロンビア大学でJAK阻害剤ルキソリチニブが、円形脱毛症に効果があるという臨床試験結果が公表されたと同時期に、エール大学で別のJAK阻害剤リウマチ治療薬のトファシチニブ(トファニシチブと呼ばれることもある)も脱毛症に効果があることが確認されています。
エール大学で臨床試験の指揮を執った夫のBrett King医学博士と妻のBrittany Craiglow医師はともに円形脱毛症の専門家で、King博士はその他にアトピー性皮膚炎、尋常性白斑、疥癬などの皮膚疾患の研究にも携わっています。
Source:https://www.yalemedicine.org/
King 博士はスタンフォード大学で化学博士号を取得した後エール大学の医学部を卒業、Craiglow医師はエール大学で学士号を取得した後同大学の医学部を卒業しており、ともに皮膚科の臨床研究医(患者の診察と研究の両方をする医師)です。
Source:https://dermatologyofct.com/
JAK阻害剤が円形脱毛症に効果があることを発見後、他の皮膚疾患にも応用
前述のように、コロンビア大学が骨髄線維症(骨髄が線維化し正常な造血が阻害される血液疾患)治療薬のルキソリチニブ(商品名ジャビカ)、エール大学が関節リウマチ治療薬のトファシチニブ(商品名ゼルヤンツ)を使い円形脱毛症の患者に臨床試験を行い、ともにかなりの効果があることがすでに分かっています。
その後コロンビア大学はルキソリチニブをAGAが原因の薄毛を対象として、エール大学はトファシチニブを円形脱毛症と同様に免疫疾患の一種だと考えられているアトピー性皮膚炎と尋常性白斑を対象に臨床試験を開始しました。
エール大学のKing博士が同じJAK阻害剤のルキソリチニブではなくトファシチニブを選んだのには理由があります。それは患者の経済的負担を少しでも軽くするためでした。
FDA承認薬を他症状のために処方すると健康保険が利きません。(コロンビア大学で使用された)ルキソリチニブはエール大学で使用したトファシチニブの3倍もし、年間1,200万円近くかかるのです(実際の患者の負担額は大学や製薬会社からどれだけ研究に補助金が出るかによって違ってくる)。
トファシチニブの臨床試験の結果
円形脱毛症に対して
(頭皮の40%以上に脱毛部分がある)重度の円形脱毛症の大人90人に対して4~18カ月トファシチニブを投与たところ、20%の人がほぼ全ての脱毛部分に、58%の人が脱毛部分の50%以上に増毛がみられました。
重度の円形脱毛症の青年期(15~24才)の患者にも投与したところ、大人よりも改善率が良かったことから、この薬の効果は円形脱毛症をわずらっている期間にも関係しているのではないか、と推測されています。今後は年齢でなくわずらっている年数に分けての臨床試験も必要になってくるでしょう。
King博士は「全ての患者に効果があったわけではなく、ルキソリチニブの数値よりも低いことは事実です。ただし症状があった期間の短い患者には効く確率が高い可能性があります。副作用はニキビや体重増などで、重篤な副作用は報告されていません」としています。
アトピー性皮膚炎に対して
中程度~重度のアトピー性皮膚炎の患者69人にトファシチニブの塗り薬を使用してもらったところ、82%に効果がありました。
「以前に経口薬を数人に投与したところ早い人で数時間で効果があったので、今回は塗り薬で臨床試験を行いましたが、それでも遅くても2日以内に効き始めました。アトピー性皮膚炎に対する結果がいいことから濃度を変えてのさらなる臨床試験を現在行っているところです。」
尋常性白斑に対して
尋常性白斑は皮膚の一部の色素が白く抜ける皮膚疾患で、マイケル∙ジャクソンもこの症状に苦しだことで知られています。一部では皮膚を漂白したのでは、という悪意の報道がありましたが、死亡時の司法解剖で尋常性白斑だったことが証明されました。
尋常性白斑は遺伝と自己免疫疾患、環境要因の組み合わせにより引き起こされると言われていますが、治療法は対処療法に限られており、難治性の皮膚疾患です。
そこで50代の女性にトファシチニブを投与したところ、2カ月後に特に顔と上半身の色素が抜けた部分が後退していく様子が確認され、5カ月後にはおでこと手の症状はほぼなくなりました。
King博士は「尋常性白斑とそれに伴う脱毛の症状がある患者にも同様に効果があったので、今後も対象になる症状や人数を増やして臨床試験を行う予定」だと述べています
製品化と副作用
期待のできる臨床試験結果が出た後の患者の一番の関心事は、その薬の製品化の時期と、副作用の問題だと思います。
エール大学での臨床試験の結果を受けて各大学や研究所の医師は「トファシチニブの皮膚疾患に対する製品化は2~3年、円形脱毛症に対しては3~5年」という期間を予想。
副作用に関しては「関節リウマチの患者には経口薬が用いられていますが、皮膚疾患の場合塗り薬で対処できると思われるので、副作用の頻度は低い」と考えられています。
まとめ
現在トファシチニブは皮膚疾患に対しては保険が利かずルキソリチニブの3分の1とはいえ年間400万円もかかりますが、さいわいにもエール大学の臨床試験にはイーライリリーやファイザーなどの大手の製薬会社やいくつもの新興製薬会社が資金面で協力していることから、製品化は迅速に進むものと思われます。
日本でも関節リウマチ治療薬として既に承認されているので、同様のことが期待できるでしょう。