カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校(UCSF)がマウスを使った実験で、免疫細胞である制御性T細胞が幹細胞を直接刺激し、育毛を促進することを発見しました。

研究者はこの免疫細胞がなければ毛包を再生することができず脱毛症につながることを確認し、従来考えられていた「AGAの原因はホルモン」説に一石を投じる形となりました。

AGAの原因

AGAの原因として今までに分かっているホルモン説を当サイトで解説しているので引用してみます。

AGA(男性型脱毛症)によって髪の毛がどんどん抜けていく大きな原因は、男性ホルモンの一種である「ジヒドロテストステロン(通称DHT)」です。

男性ホルモン(雄性ホルモンとも呼ばれる)は英語でアンドロゲン(androgen)と呼ばれています。男性ホルモン(=アンドロゲン)はいくつかの成分で生成されていて、その95%がテストステロンです。

95%ということは男性ホルモン≒(ニアイコール)テストステロンで、完全なイコールではありません。

そしてAGAに関連している5αリダクターゼという酵素があります。酵素とは体内で起こる細胞分裂などの化学反応に対して触媒(しょくばい)として機能する分子のことです。

酵素の一種である5αリダクターゼは、体内を流れている男性ホルモン(アンドロゲン)の一種であるテストステロンの10倍くらい強力な「最強テストステロン」ジヒドロテストステロン(DHT)に生まれ変わります。

ジヒドロテストステロン DHT

ジヒドロテストステロン(DHT)は男性性器を大きくしたり、筋肉を大きくしたりするので、人体に有害というわけではありません。むしろ必要な男性ホルモンの一種で、唯一の有害性が、髪の毛の成長を阻害するという点です。

ジヒドロテストステロン(DHT)は、アンドロゲンレセプターという受容体が受け取って結合し、結合したジヒドロテストステロンは、髪の毛の成長を阻害(細胞分裂を抑制)する作用のあるTGF-β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)というサイトカイン(タンパク質の一種)を生成します。

そのサイトカインが髪の毛の成長期を邪魔して脱毛させていく、というのが現代の医学で分かっている薄毛の理論。

ところが、カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校(UCSF)から脱毛症の原因として免疫細胞がかかわっているのではないか、と発表があったのです。

円形脱毛症は免疫疾患だというのはよく知られていますが、同大学は免疫疾患がAGA(男性型脱毛症)など他の脱毛症にも関連している可能性がある、という新説を立てたということになります。

これまでもAGAの主な原因はホルモンであるけれど、原因解明が完全に終わっていないのは専門家も認めていました。他にも原因があるという考えは、前立腺ホルモンをコントロールする処方箋薬を使っても薄毛への効果が100%ではない、という研究結果からきています。

カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校とは?

こういった新説が出た場合まず、出所が信頼できるのかどうかが非常に重要なので調べてみました。

カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校(UCSF)は医学部だけの学校です。アメリカで医師になるには4年制の大学を出たあと、メディカル∙スクールに行きますが、同校はそのメディカル∙スクールのみの学校で、正確に言うと大学院に当たります。

最新のU.S.Newsの全米メディカル∙スクールの総合ランキングによると

1位 ハーバード大学
2位 ジョンズホプキンス大学
3位 ニューヨーク大学
3位 スタンフォード大学
5位 カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校(UCSF)

となっており、UCSFは全米で5位というランキングのみならず、上位5校の中では唯一の公立のメディカル∙スクールです。一般医療のランキングではハーバード大学の次、2位にランクされています。

UCSFは日本人にはあまりなじみのない大学ですが、このランキングを見ると権威のある大学だということが分かるでしょう。

発表された論文の概要

Michael Rosenblum博士
Source:http://immunoprofiler.org/

今回の論文の第一著者であるUCSF皮膚科の准教授Michael Rosenblum医学博士いわく

「私たちの毛包は常に再生されています。髪の毛が抜け落ちると毛包の一部が成長しなければいけません。これは従来完全に幹細胞に依存するプロセスだと思われていたのですが、今回免疫細胞の一種である制御性T細胞(Tregs)の存在が不可欠であるということを発見しました。もし制御性T細胞(Tregs)をなくしてしまうと髪の毛は成長しません」。

「今回の研究で分かったことは制御性T細胞(Tregs)に欠陥があると自己免疫疾患が原因の円形脱毛症だけでなく、AGA(男性型脱毛症)など他の脱毛症の原因にもなる可能性があることです。さらにはこの制御性T細胞(Tregs)は髪の毛の再生だけでなく、皮膚の傷の修復にも大きな役割を果たしている可能性もあります」。

制御性T細胞と皮膚幹細胞の関係を研究中に偶然の発見

通常制御性T細胞(Tregs)は他の免疫システムに外から入ってくるものに対し、敵か味方かを知らせる役割を果たしています。

制御性T細胞
赤やピンクに発光している点々が制御性T細胞(Tregs)
Source:https://www.ucsf.edu/

制御性T細胞(Tregs)が正常に機能しない場合ピーナッツや猫のような無害なものに対してアレルギー反応を起こしたり、免疫系が自分の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患に苦しむこともあります。

他の免疫細胞と同じようにほとんどの制御性T細胞(Tregs)はリンパ節に存在しますが、その他の組織にも存在。そこでは局所的に代謝機能を助けるために進化したり通常の抗炎症性の役割を果たしたりしています。

例えばRosenblum医学博士は以前に制御性T細胞(Tregs)が新生児のマウスに有益な皮膚微生物に対する免疫寛容性を確立するのを助けたり、成人期のマウスが傷の修復に必要な分子を分泌するのを助けたりすることを確認。

免疫学者でもあり皮膚科医でもあるRosenblum医学博士は、常在する免疫細胞が皮膚の健康にどのような役割を果たしているのかをよりよく理解するために、一時的に皮膚から制御性T細胞(Tregs)を取り除く技術を開発しました。

そして制御性T細胞を取り除いたマウスの皮膚の一部を傷つけ、傷の回復状態を調べるためにその部分の毛を剃って観察し始めたところ、「マウスの毛が生えてこなかったのです。これは一体どういうことなのか?おもしろいことになってきたかもしれない。今後(制御性T細胞と発毛についての)研究もしていかなければ」と、その時に偶然発見した事実に対する驚きと心境をインタビューで語っています。

Rosenblum医学博士は最初から制御性T細胞(Tregs)と発毛の関係を研究していたわけではなく、制御性T細胞(Tregs)と皮膚との関係を研究中に偶然見付けたものだったのです。

新たな研究

そして偶然に発見した制御性T細胞(Tregs)と発毛の関係をさらに研究するために、新たな実験が行われました。

その結果、毛包幹細胞の周囲に集まる制御性T細胞(Tregs)の数は毛包がヘアサイクルの成長期に入る時に3倍に増えること、またマウスの毛を剃った後3日以内に制御性T細胞(Tregs)を皮膚から取り除くと、毛の再成長を妨げることも確認。

いったん毛の再成長が始まった後に制御性T細胞(Tregs)を取り除いても毛の再成長に影響は与えなかったことから、制御性T細胞(Tregs)が毛包内に存在する幹細胞と密接な関係があり、毛包の再生を促すことが分かります。

最初、制御性T細胞(Tregs)には抗炎症性がああるので、それが毛の再生に関連しているのかと思われましたが、この抗炎症性は毛の再生を引き起こす役割には関連していないようでした。

代わりに研究者は制御性T細胞(Tregs)がNotch経路として知られる細胞間のコミュニケーション機能を通し、幹細胞の活性化を直接引き起こすことを発見しました。

まず研究者は皮膚にある制御性T細胞(Tregs)は体の他の場所にあるものと比べると、Notchシグナル伝達タンパク質Jagged1(Jag1)を非常に高いレベルで生産させることを実証。

そして制御性T細胞(Tregs)を皮膚から取り除くと毛包幹細胞にあるNotchシグナルを劇的に減少させ、反対に制御性T細胞(Tregs)をJag1タンパク質に覆われた非常に小さい泡で置き換えると幹細胞のNotchシグナルを復活させ毛包の再生を活性化させることも示しました。

制御性T細胞とNotchシグナル
《拡大図内》赤色:毛包幹細胞 緑色:Jag1タンパク質 青色:制御性T細胞(Tregs)
Source:https://www.cell.com/

Rosenblum医学博士によると「これは幹細胞と制御性T細胞(Tregs)がまるで一緒に進化したようなものなのです。この実験から制御性T細胞(Tregs)は炎症から幹細胞を守るだけでなく再生過程にもかかわっていることがわかります。幹細胞は制御性T細胞(Tregs)にいつ再成長する時期なのか、という情報を完全に頼っています」。

制御性T細胞(Tregs)と自己免疫性脱毛症の関連性

Rosenblum医学博士は「制御性T細胞(Tregs)が毛包の成長に関係があるという発見は、頭皮が硬貨のような円形(または楕円形)に脱毛し眉毛やまつ毛なども脱毛してしまうこともある(自己免疫疾患である)円形脱毛症も制御性T細胞と密接な関係がある可能性が高い」と述べています。

円形脱毛症は関節リウマチと同じぐらい一般的で、1型糖尿病よりも頻繁に見られる自己免疫疾患であるにもかかわらず、何が原因であるのかほとんど理解されていません。

博士の研究チームは制御性T細胞(Tregs)が欠損したマウスの脱毛症状を観察した後、以前の研究で脱毛症に関係する遺伝子はほぼ全て制御性T細胞(Tregs)に関連しているのを確認していたことから、制御性T細胞(Tregs)の機能を高める治療が脱毛症の改善に有効であることを理解したのです。

Rosenblum医学博士は「毛の成長に関わる制御性T細胞(Tregs)の重要な役割をもっと理解できれば、円形脱毛症だけでなくAGA(男性型脱毛症)などの一般的な脱毛症の治療の改善につながる」と予想しています。

そして「今回の研究で免疫細胞が組織生物学において以前考えられていたよりもっと広範囲に役割を果たしていることが分かりました。毛包幹細胞がケガをした後の皮膚の再生に関連していることは既に分かっているので、今後皮膚にある制御性T細胞(Tregs)が傷の修復の過程にどの程度の役割を果たしているのかも研究していく予定」です。

最後に博士は「今までは幹細胞は損傷を受けた後組織を再生させるためにあり、免疫細胞は感染症と戦うために組織に入って来る、というように別々に働くと考えられていました。ところが実際には、幹細胞と免疫細胞は再生を可能にするために協力して同時に働かなければいけないことが分かりました」と、幹細胞と免疫細胞の新たな関係性を発見したことも報告しています。

まとめ

AGA(男性型脱毛症)の主な原因はホルモンであることは間違いありませんが、ホルモンをコントロールしてもAGAの治療につながらないことがあるのは皆さんご存じだと思います。

その場合もしかするとホルモンではなく免疫細胞が関連しているかもしれないのです。