薄毛に悩み塗り薬や飲み薬を試し、その結果に満足していない人も多いのではないでしょうか?そこで次の段階として植毛を検討している人もいるでしょう。

ただ、植毛にも限界があります。今のところ植毛は自毛を使うという選択肢しかなく、既に症状が進んでいる場合それも難しい、という問題です。

最新の幹細胞技術の技術で髪の毛を再生する技術は進んできていますが、毛包を培養する時間とコストの面でまだまだ改善の余地があります。

そこへ、近年注目されている3Dプリンティング技術をさらに進化させた4Dプリンティングを使い毛髪を人工的に作るという試みが、化粧品会社最大手のロレアル社と新興のPoietis社の共同開発で行われることになりました。


Source:https://www.loreal.com

Poietis社 3Dレーザープリンティング技術でヒト組織の再生に成功

説明するまでもなくロレアルは世界的な大手の化粧品会社で、売上高は資生堂の約3倍、3兆円を超えています。ここでは一般的に知られているロレアル社ではなく、開発相手のPoietisがどんな会社であるのか少し調べてみましました。

Poietis社はフランス国立保健医学研究所(French National Institute of Health and Medical Research: Inserm)とボルドー大学との間で2014年に設立されたバイオテクノロジー企業です。

同社は世界で初めて精密なレーザを使った3Dプリンティング技術でヒト組織を作るのに成功しています。この技術を使い、人工の皮膚の研究では、世界最大の化学会社であるドイツのBASF社と技術提携も結んでいる、将来有望な会社です。

Poietis社3D人工皮膚
Source:https://www.poietis.com

人工皮膚は美容や移植分野での需要が高まっているだけでなく、世界的に動物実験の規制が厳しくなってきていることから、臨床試験のための需要が今後急増するとみられています。

2018年にはヨーロッパ市場向けに世界で最初の人工皮膚Poieskinの販売を始めました(人に移植する目的ではなく、臨床試験のためのもの)。

BASF社と提携時のプレスリリース
https://www.basf.com/en/company/news-and-media/news-releases/2015/07/p-15-281.html

Poietis社の3Dプリンティング技術が優れている点は、唯一精密レーザーを使って作っていることと、作られたヒト細胞の生存率が他社に比べると高く95~100%にのぼることです。

Poietis社が開発予定の4Dプリンティング技術

3Dプリンティングは最先端の技術のように思われていますが、実は既に古くなりつつある技術で、今はあちこちで4Dプリンティング技術の研究が盛んに行われています。アメリカではハーバード大学が開発に成功しています(まだ医療など現実的なものに応用できるまでには達していません)。

4Dプリンティングとは3次元(立体)に「時間」の要素を加えた概念で、時間経過に伴い変形(形状が変化)する立体物を再生できる技術のこと。

Poietis社が目指しているものは、既に開発した精密な3Dプリンティング技術で毛包組織を作ることで終わるのではなく、作った毛包組織が時間の経過と伴に毛包に変化していくものをプリンティングできる、4D技術です。

立体的にものを復元できるだけでもすごい技術なのに、作ったものが時間とともに進化する、というのは驚きですよね。

毛包を4Dプリンターで作ることができるようになるのか?

ロレアル社には30年に渡る毛髪研究の積み重ねがあります。それを化粧品∙日用品以外の分野で今後どう利用していくのか模索していたところ、Poietis社が精密で生存率の高いヒト組織の再生に成功しました。

両社はお互いの知識と技術を使い4Dプリンティングの技術を開発できれば、毛包を人工的に作れるのではないか、という見解が一致し提携に至っています。

Poietis社は人工皮膚に関しては、「移植可能な人工皮膚ではなく、化粧品∙日用品の臨床試験に利用できる人工皮膚の研究開発に集中します」と述べているように、最初から美容分野への進出を考えていたようで、毛髪研究を一歩進めてそこから何か製品化したいと望んでいたロレアル社とニーズが合いました。

ロレアル社とPoietis社が開発を予定している4Dプリンティング技術は、(患者自身の)毛包組織を含むバイオインクをミクロレベルで精密に計算された位置に一秒ごとに一万滴落とし、細胞の層を次々に作り、3週間かけて育てあげるというものです。

その後育った毛包組織を患部に注入し、周りの皮膚組織となじませ毛髪が生えるのを待ちます。

4Dプリンティングの技術自体はハーバード大学でも成功しているので、もともと高い技術を持つPoietis社が開発するのに問題はないと思われますが、毛包組織を毛包に育て上げるという過程をクリアーできるのかどうかは今後の研究にかかってくるでしょう。

まとめ 

ロレアル社は世界最大の化粧品会社であることから開発資金が豊富なので、研究は順調に進むでしょう。

4Dプリンティング技術を使った毛包再生が成功すれば、人工的に毛包を大量生産できるので、コスト面で幹細胞技術より有利になる可能性もあります。

大量生産ができるということは、自毛植毛の最大の課題である「移植限界本数」が事実上無くなるということでもあり、いち早い商品化が期待されますね。

ただし、「人工物」は人体にとっては異物であり、移植時に白血球が4Dプリンティング技術で人工的に作った毛包を攻撃(=正常な免疫反応)してしまうことが予想できるので、その点をどうクリアしていくのか今後の臨床試験の結果が気になるところです。