もともとは違った目的で作られ商品化されたものが、他の症状にも効果があるかもしれない、という偶然の発見が製薬界では時々起こります。

同じ過程をたどった薄毛の代表的な治療薬が、日本でも海外でも浸透しているミノキシジルです。ミノキシジルはもともと高血圧の経口薬として販売されていたものを、毛髪再生に効果があることから液体の外用薬にしたものです(内服薬としては副作用が見付かったため)。

二つの既存薬をAGA治療薬として商品化を目指している、Allergan社の研究を紹介しましょう。

Bimatoprost  もともとは緑内障の治療薬

Allergan社はアイルランドのダブリンに本社を置く製薬会社で、合併を繰り返しながら大きくなり、2015年に現在の社名になりました(ニューヨーク市場上場)。

日本を含め世界各国約100カ所に支社があり、従業員3万人以上、売上高1兆7,000億円を超える国際企業です。美容関連分野の薬を主に製造し、近年では顔のしわを一時的に緩和する「ボトックス」がよく知られています。

Bimatoprostは、同社のまつ毛の育成を促す塗り薬 ラティース(FDA承認薬)の主成分で、さらにラティースはもともとは緑内障治療薬ルミガン(FDA承認薬)。

ということはもともとは緑内障の薬が薄毛の治療薬として商品化されようとしているのです。

緑内障治療薬ルミガンを目薬として使っている患者のまつ毛が増えたり伸びたりしたことから、まつ毛育成薬ラティースができ、現在はその同じ薬を使いAGA治療を目的とした臨床試験が行われています。

2015年11月に臨床試験第二段階の結果が公表されました。それによると、効果はミノキシジルと同等かやや上回り、すく作用の報告がゼロ、と大変希望の持てるものです。

Allergan社Bimatoprost
Source:http://www.folliclethought.com

Allergan社はその後、Bimatoprostの成分をより毛包に効率的に届けるべく改良を重ねており、改良薬の臨床試験が近日中に始まる予定です。改良薬はBimatoprost単体ではなく、さらなるAGAの治療成分として注目されているSetipiprantとのコンビネーションになりそうです。

Bimatoprostは既にFDA承認薬であること、Allergan社は国際的で大規模な企業のため開発資金が潤沢にあることから、新たな臨床試験も順調に進むと思われます。

Setipiprant 開発中止になった喘息薬がAGA治療薬に

もう一つの治療薬、Setipiprantの研究もAllergan社で行われています。もともとSetipiprantは喘息薬(飲み薬)としてスイスの製薬会社Actelion社で臨床試験が続けられていましたが、有効性は確認されたものの、既存の薬と比べて特段に優れたな作用がある訳ではないことから開発が中止されました。

この薬はアレルギーや炎症に関わるProstaglandin D2(PGD2)とよばれるたんぱく質の受容体を阻害することで喘息を治療するものでした(受容体:外界や体内からのなんらかの刺激を受け取り、情報として利用できるように変換する仕組みを持った構造のことで、レセプターともいう)。

ところが、2012年にペンシルバニア大学のGeorge Cotsarelis博士がAGAの患者の毛包に、このアレルギーや炎症に関わるPGD2たんぱく質が通常よりも高いレベルで存在することを突き止め、開発中止になったSetipiprantが再び脚光を浴びるようになったのです(拮抗剤:生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどの働きを阻害する薬のこと)。

AGA患者のPFD2
AGA患者の毛包の写真(緑の部分がPFD2)

Cotsarelis博士は世界的な脱毛症の研究者で、AGAの新たな原因を究明することになるかもしれないこの発見は、当然研究者の間で注目を集めることに。

その後、Kythera Biopharmaceuticalsという製薬会社がペンシルバニア大学と共同で臨床試験を始め、2014年にSetipiprantの知的所有権を同大学から買い取りました。

さらに2015年にはAllergan社がKythera社を買収。Setipiprantの臨床試験はAllergan社のもとで進められることになりました。臨床試験の第二段階が行われ、好ましい結果が出ています。前述のBimatoprostを加えた臨床試験の結果も近々出る予定です。

Allergan社Setipiprant
Source:https://www.hairlosstalk.com

まとめ

潤沢な資金のある大手の製薬会社がAllergan社が、AGA治療薬の塗り薬(Bimatoprost)と飲み薬(Setipiprant)を同時に開発しているというニュースは、薄毛に悩む患者にとってまさに朗報です。

もともと緑内障の薬、アレルギー喘息の薬として研究開発されたものがAGA治療薬になるとは、開発当時は誰も考えなかったに違いありません。

特に一つの薬は開発が中止になり、本来日の目をみることがなかった薬です。偶然の発見というのはおもしろいものです。