“21 st Century Cures Act” (日本では今のところ、「21世紀の治療法」と訳されています。)と呼ばれる法案が2016年11月30日アメリカの下院議会で、12月7日に上院議会で可決し、12月13日にはオバマ大統領(当時)が法案成立の文書に署名しました。

可決の3年近く前に議論が始まった法案でしたが、一気に圧倒的多数で可決したのは、オバマ大統領が民主党、議会は上下院とも共和党という、当時のねじれ状態にあるアメリカ議会では異例のことです。

上院では賛成94、反対5、下院では賛成392、反対26、という数字を見ると党派を超えて法案が通ったことが分かります。実はこの法案の可決は、党派を超えて支持されるような内容であっただけでなく、有力な政治家の家族の死がかかわっているのです。

アメリカで可決した法案ですが、今後日本の製薬会社や新薬承認にも影響が出てくるものと思われるので、今回とり上げてみました。

21st Century Cures Act
Source:https://www.nbcnews.com/

“21 st Century Cures Act”とは?

この法律は約1,000ページにもおよび、今後影響を受けない医療機関や研究機関、製薬会社はないと言っていいほど、医療分野の多岐にわたっています。

医療関係の法律では2010年に成立した”Obamacare”として知られる”Affordable Care Act”以来の重要な、そして医療界を劇的に変える可能性のあるものです。

法律の主旨

  1. 今後10年間にわたり、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health 略称NIH)に40億ドル(5,517億円)、研究目的のため追加支援。
  2. 新薬と新医療機器の承認に関して、どういう臨床実験を行い、どういう成果を求めるのか、などの決定権の裁量をFDA(アメリカ食品医薬品局)により大きく与える。
  3. 新薬開発と承認のプロセスに、患者の意見を取り入れる。
  4. 薬物中毒とメンタルヘルスの研究と治療のための追加資金

法律の一部はバイデン元副大統領の息子に捧げられる

法律が可決した当時副大統領だったジョー・バイデン。2015年に長男のボー・バイデン(享年46歳)をガンの一種、脳腫瘍で亡くしています。副大統領にとっては人生において二度目の悲劇です。

バイデン氏は1972年に交通事故で妻と幼い娘を失っています。同乗者だった息子のボー(3歳)と弟のハンター(2歳)は大けがをしましたが命は助かりました。

幼い時の交通事故では奇跡的に助かった命。残念ながら脳腫瘍からの生還はなりませんでした。ボー・バイデンは2013年に脳腫瘍と診断され治療を受けた後、寛解(かんかい)の状態でしたが、2015年に再発しわずか10日後に亡くなりました(寛解:病気の症状が一時的あるいは継続的に軽減し落ち着いた状態)。

第44代目のデラウェア州司法長官を務めていたボー・バイデンは、2008年に父親のジョーが副大統領に指名されるにあたり国会議員を辞任した後、後任に有力視されていました。ところがまわりの期待をよそに「息子ボーは自分の後任として立候補することはありません。彼は民間から公の仕事に移って以来、今までもこれからも自分の力で勝ち取った仕事にしか就きません。」と、ジョーが発表しました。

さらにボーは2003年にアメリカ軍の予備部隊であるデラウェア州の陸軍州兵に入隊し、2008年には州の司法長官の職を務めながらイラクに派兵されていたことも国政に出なかった理由です。イラクで従軍中に父の副大統領としての宣誓式があり、休暇をもらい立ち会ったのは今でも多くのアメリカ人の記憶に残っています。

ジョー・バイデンとボー・バイデン
Source:https://abc13.com/

宣誓式後のスピーチで、息子たちが幼い時に遭った交通事故以来築いてきた親子の関係についても語るほど、ジョーとボーには特別な絆があったことがよく知られています。

”21st Century Cures Act”の一部、ガンの研究治療薬のスピード化のための部分は脳腫瘍で亡くなったボーに捧げられ、 “Beau Biden Cancer Moonshot”と名付けられることに。オバマ大統領が法案に署名した時にジョーがすぐそばで見守る姿は心を打つものでした。

新薬承認の現状

FDAの新薬承認は、前臨床段階、第一段階、第二段階、第三段階、に分けられています。

前臨床段階で、新薬となり得る物質を動物で実験し、毒性、有効性などを調べ、そこでFDAの基準を達して初めて治験薬として人間への臨床実験が認められます。

FDAのデータによると、前臨床段階から第一段階に到達できる薬は30%、第二段階に到達できる薬は14%、第三段階に到達できる薬は9%、承認にまで至る薬は8%、です。

そして、前臨床段階に1~6年、第一~第三段階に6~11年掛かっている、というデータもFDAは公表しています。

新薬の承認率が8%。承認が最長で17年、では膨大な資金のある製薬会社しか新薬を開発できず、さまざまな病状に苦しむ患者は、長い年月待ち続けなければなりません。

“21 st Century Cures Act”が消費者に与える影響

新薬の承認は、今までは何千人もの治験者と何年にも及ぶ臨床実験が必要でしたが、今後はFDAが承認プロセスを簡素化することにより、スピードアップを図ることが期待されています。

FDAが新薬の承認プロセスを迅速化することで、新薬開発に掛かるコストも削減され、製薬会社は、患者数の少ない病気や症状のための研究開発に資金をつぎ込むこともできるようになるでしょう。

さらに、新薬承認のコストが下がることで、小規模な企業や起業家が医療分野に参入できる可能性も秘めています。

まとめ

アメリカでのこの画期的な法案が可決された一方日本では、厚労省や医師会は「患者よりも利権優先」のため新薬が認可(承認)されるまで気の遠くなる時間がかかっているのが現状です。

IR法(カジノ法案)のような法案ではなく、患者のために、日本国民のために今回のアメリカの法案を参考に日本でも新薬承認の時間を短縮する法案を国会に提出してほしいと思います。